Behind the Sound · 収音

高速でも排気音を
風に消されない

僕が残したいのはクリーンな排気サウンドそのもの。でも高速で走り出すと、録音を台無しにする最大の犯人はエンジンではなく風です。風切り音が立ち上がると、僕の R6 に積んだ Akrapovič のあの音さえ、ゴーッという低域のノイズにすっぽり覆い隠されてしまう。ここ数年、風と格闘し続けるうちに、僕の中で固定のやり方が4層のメソッドとして固まってきました。この記事では、各レイヤーで何をしているのか、なぜそうするのかを一気にお話しします。

まず、僕がずいぶん遠回りしてようやく腹落ちしたことから。風切り音は「後処理でノイズリダクションをかければ何とかなる」たぐいの問題じゃありません。最初は僕もそう思っていて、結果はゴーッという低域の塊に排気音全体が埋もれ、ノイズリダクションのプラグインでゴリゴリ削ったら、排気の厚みまで一緒に削れて、こもった偽物みたいな音になった。手をつける前より悲惨でした。そこでやっと諦めがついたんです——風は録音ボタンを押すその瞬間に防ぐしかない、後処理は仕上げにすぎない、と。だからこの記事で話すのは、すべて録音のその場で風を最小限に抑える方法です。

風切り音とは何か、なぜこんなに救えないのか

僕らがふだん「風ノイズ」と呼ぶものには2種類あって、これを区別するのがすごく大事です。ひとつは、遠くで風が木や建物を吹き抜けてくる環境音。これは正真正銘の「音」なので、マイクで素直に録って問題ありません。もうひとつ、そして高速走行中の僕にとって最大の敵が、気流がマイクの振動板に直接ぶつかるやつ。これは音じゃなくて、振動板が気圧で無理やり押し出されて起きる低域のオーバーロードです。

この違いが、なぜこんなに救えないのかを決めます。一般的な環境ノイズは周波数が比較的ばらけているので、ノイズリダクションのソフトでも特徴をつかんで分離できる。でも気流が振動板を直撃すると、ほぼ100〜200Hz以下に集中した分厚くフラットな低域エネルギーの塊になって、一瞬で信号を振り切らせてしまう。いちばん腹が立つのは、この低域がちょうど僕の残したい排気の低域と重なっていること。後処理でバッサリ切ると、サウンドの厚みまで一緒に切れてしまうんです。

もうひとつの変数がスピードです。気流が振動板を叩く圧力は車速とともに急激に跳ね上がる。線形じゃなく、速度が上がると一気に増える。だから街中をのんびり流しているうちはまだいいんですが、高速道路に乗って時速80〜90km まで上げると、風圧が振動板の耐えられる範囲を一気に超えていく。「路地でのテスト録音は完璧だったのに、高架に上がった途端ぜんぶ台無し」——そんな経験を数えきれないほどしましたが、原因はまさにここにあります。

僕がつかんだ核心はこうです。風切り音は本質的に物理の問題であって、ソフトの問題じゃない。マイクの手前で防げた気流は、そもそも後処理で消すノイズにすらならない。だから僕は全エネルギーを「気流を振動板に当てない」の一点に注ぎます。

ここが腑に落ちると、4層メソッドの理屈はすごくシンプルになります。前の3層はとにかく風を振動板に触れさせない、触れても力を最小にするため。最後の1層は、すり抜けた残りがあっても、それが増幅されて歪みにならないようにするため。以下、一層ずつ分解していきます。

説明より耳で——ヘッドホン推奨。チャンネル実録「Gear Up! Highway Run」。

僕の風切り音対策・4層メソッド

僕の流れは決まって4層。外から内へ、ハードから設定へ、各層で一段ずつ防いで、積み重ねてはじめて足ります。どれか1層だけでは効きません。風防だけ付けても設置が風に正対していれば風に食われるし、設置が完璧でもゲインを上げすぎればブリッピングの瞬間に歪む。この4層は互いを補い合っていて、1層欠けるだけで穴が開きます。

順番はこうです。(1) デッドキャット(ウィンドジャマー)でいちばん外側で気流をほぐす。(2) 風下への設置でレコーダーを風の当たりにくい場所に押し込み、マイクをテール側・風と同じ向きに。(3) Zoom H2n で収音範囲を絞り、収音角度を後方の排気まわりにフレーミングする。(4) マイクゲインを下げて、排気の大音量にしっかり余裕を持たせ、ピークを歪ませない。では各層で僕が何を考えているか、順に話します。

第1層:デッドキャット、振動板の外側で気流をほぐす

僕の最初の防衛線がデッドキャットです。英語では deadcat や windjammer(ウィンドジャマー)と呼ばれる、マイクの外側にかぶせるあのモフモフのやつ。マイクに最初から付いてくるスポンジで十分だと思っている人が多くて、僕も最初はそう思っていました。でも実際に高速を走ると、この2つは別次元だとわかる。スポンジ風防は室内のそよ風くらいなら防げますが、バイクのあの風圧には力不足です。

デッドキャットが効くのは、その構造のおかげ。一本一本の長い毛が、気流がマイクに届く前に、集中した一筋の風を幾重にも無数の細かい乱流へとほぐしてくれる。要するに、あの重いパンチを小さな力の集まりに分解してくれるわけです。だから気流が振動板に触れる頃にはずいぶん穏やかになっていて、しかも音そのものはあまり遮らない。ロケで収音する人がほぼ全員モフモフをかぶせ、スポンジだけに頼らないのもこのためです。

数字で言うと、スポンジ風防が防げるのはだいたい10〜15dB。デッドキャットは形状や風速にもよりますが20〜30dB以上いきます。僕がスポンジからデッドキャットに替えたら、高速域のあのゴーッという低域の轟きが一段はっきり下がりました。風切り音が完全に消えるわけではありませんが、もともと「全部台無し」だった状況を「後処理で救える」レベルまで引き戻せる——しかもこれは僕のメソッド全体でいちばん安く済んで、改善はいちばん直接的な一手なので、毎回ここから始めます。

最初の防衛線 · 防風

デッドキャット(Deadcat / Windscreen)

必須

マイクの外側にかぶせる長毛の風防。気流を細かい乱流にほぐし、振動板への衝撃を大幅に弱めます。高速で排気音を録るならデッドキャットは必須。スポンジだけに頼ってはいけません。

メリット

  • 長毛が集中した気流をほぐし、風切り音の低減効果がいちばん体感できる
  • スポンジ風防よりワンランク上の防風性能
  • 安い、付けやすい、すぐ効く
  • 中高域への影響が少なく、サウンドのディテールを保てる

デメリット

  • マイク口径に合うサイズを選ぶ必要があるので、買う前に採寸を
  • 長毛にホコリが溜まりやすく、ときどき手入れが要る
Amazon でデッドキャットを見る

デッドキャットを買うとき僕が気にするのは一点だけ、サイズが合うかどうか。緩すぎると高速でバタバタめくれて、それ自体が振動ノイズを生む。きつすぎるとそもそも入りません。買う前にマイク、あるいはレコーダーのマイク部の口径をきちんと測って、ぴったり包めるものを選ぶこと。僕が使っている Zoom H2n のような一体型レコーダーには、その形状に合わせた専用のモフモフが出ていて、汎用品よりしっかり包んでくれて高速でも揺れにくいので、僕はそれを優先して探します。

第2層:風下への設置、マイクをテール側・風と同じ向きに

第2層は一円もかからないのに、いちばん見落とされがち。それが設置位置です。考え方はシンプルで、必死に風を防ぐより、そもそも風があまり当たらない場所にレコーダーを置けばいい。走っていると、車体・カウル・タンク、さらには自分自身の後ろにも、比較的穏やかな「後流域」が引きずられてできます。そこは気流が乱れていて速度も低く、正面からの直撃ではない。僕はレコーダーをこの風下に押し込むことで、風切り音を発生源の時点で大きく減らしています。

2つめの肝がマイクの向き。僕はマイクをテール側、つまり進行方向の気流と同じ向きに向けて、絶対に風に正対させません。手を車の窓から出すところを想像してください。手のひらを風に正対させると後ろへぐいぐい押されますが、手刀にして風に沿わせて切り込めば抵抗はずっと小さい。マイクも同じで、後ろ向きにすると気流が「すり抜けていく」感じになり、「叩きつけてくる」感じにならない。振動板への正面の衝撃が一気に減ります。しかも僕が録りたいのはもともと後方の排気口。テール側に向ければ、防風と収音の両方を同時に片づけられるわけです。

側面図:スポーツバイクに乗るライダーと、風向き・風下に置いたレコーダーの設置位置・排気口を示した図
図:風は正面から迎えてきてテール側へ流れる。レコーダーは体の後ろの比較的穏やかな風下に置き、マイクをテール側・風と同じ向きに向けることで、気流が振動板へ直接叩きつけるのを大きく減らせる。

実際にどこへ置くかは車両ごとに違うので、僕は一台ずつ試して詰めています。R6 でよく使う位置は、後ろ寄りの排気口に近いあたり。結束バンドやクイックリリースで固定し、正面から直接風を受けるラインはできるだけ避けます。固定は必ずしっかりと。高速ではほんの少し緩むだけで、モフモフの中に振動ノイズが大量に増えます。僕の経験では、設置に10分余計にかける方が、後処理で1時間ノイズリダクションするより効くことがよくあります。

僕の泥くさいけど当たる判断法:マイクの位置を自分の顔だと思ってみること。その位置と角度が、自分なら目を開けていられないなら、振動板にとっても同じくらい過酷な風です。顔が「ここなら居心地いい」と感じる角度を探せば、風切り音はたいてい僕の許容範囲に収まります。

第3層:Zoom H2n で収音範囲を絞る

第3層は、収音モードを切り替えられるツールが頼り。僕が使うのは Zoom H2n です。本体の上下に5つのマイクを備えていて、いくつものモードに切り替えられる。前側の X/Y は90度クロスで、狭めにフォーカスして録れる。MS(ミッドサイド)モードはサイドの広さを調整でき、すごく狭いところから180度まで開ける。さらに上には2ch、4chのサラウンドもある。風切り音対策では、僕は狭めで指向性の強いモードに切り替えて、後方の排気まわりだけに集中させます。それ以外の方向の音——横から、正面から叩きつけてくる乱流の風切り音も含めて——は収音範囲の外に締め出されます。

裏にある理屈は「指向性」です。サラウンドや広角モードは四方八方に敏感だから、風がどの方向から来ても拾ってしまう。狭角の指向性モードは一方向に集中するので、「その方向にない風」にはもともと鈍感。収音をぐっと絞って排気に狙いを定めれば、収音角度でもう一層、横からの風切り音を濾し取れるうえに、録音全体に占める排気音の比重も自然と際立ちます。

現場で収音角度を切り替えられる、まさにこれが、僕が最初に適当なボイスレコーダーではなく H2n を選んだ最大の理由です。そのときの風向きと設置に合わせて、いちばん風を避けつつ排気に狙いを定められるモードをその場で選べる。録り終えて家に帰ってから「広く録りすぎてノイズが全部入った」と気づくこともありません。

ただし注意も。指向性が狭いほど「ちゃんと狙えているか」にシビアになります。設置が少しずれて排気口に当たっていないと、狭角だと逆にスカスカに録れてしまう。だから第2層の設置と第3層の収音角度は、実はセットなんです。先にレコーダーを風下・テール向きに置いてから、収音モードでその方向を「フレーミング」する。両層がかみ合ってはじめて決まります。

収音角度の話のついでに、僕がどうしても譲らない前提も。風切り音対策では、もう一台 Zoom H2n を持っていってでも、DJI Osmo Action 4 の本体マイクで録った音をそのまま使うことはしません。カメラのあの本体側の風対策は「人の話し声をクリアに聞かせる」ために調整されていて、能動的に低域を下げて風音を消しにかかる——これが僕の欲しい排気サウンドにはちょうど逆効果なんです。カメラが削るその低域こそ、サウンドの厚みがある帯域。風は消えても、僕の欲しいものまで一緒に消える。カメラの風対策は僕の前3層の理屈と真っ向から衝突します。僕は発生源で風を防ぎつつ排気の低域を丸ごと残したいのに、カメラは事後に低域を風ごと身まで削ぎ落としてしまう。だから僕は、収音角度を自分で調整できて、なおかつ全部の低域を僕の処理に委ねてくれる H2n を使う。そうしてはじめて、前3層の努力が本体側の処理でみすみす平らにならされずに済むんです。次の層のゲイン設定も、この H2n 上での調整の話です。

第4層:マイクゲインを下げて、サウンドに歪み回避の余裕を残す

最後の層は設定面。マイクゲイン(入力ゲイン)を下げるです。直感ではゲインを上げた方が音がクリアに録れる気がしますが、排気サウンドではちょうど逆。排気はそもそも音圧が高く、ブリッピングの一瞬のピークはさらに速く激しい。ゲインを上げすぎると、このピークがそのまま録音の上限(0dB)にぶつかってクリップし、歪みます。一度歪むと、その区間は廃棄で、後処理で何をしても戻りません。

ゲインを上げると2つめの弊害もあります。残った風切り音まで一緒に増幅してしまう。前3層で苦労して抑え込んだ風切り音が、ゲインの上げすぎでまた頭をもたげてくる。だからゲインを下げることは一度に2つを片づける——サウンドを歪ませず、風切り音も増幅しない。

僕の設定原則は、いちばん大きいブリッピングのピークがだいたい -12〜-6dB の間に収まるようにして、しっかり余裕(ヘッドルーム)を残し、頭を打たせないこと。全体を小さめに録って後処理で音量を持ち上げる方を選びます。「現場で聴いて気持ちいいから」とゲインを上げて歪みに賭けるようなことはしません。デジタル録音では、歪んでいない小さな信号は後処理で救えますが、歪んだものは戻せないからです。

僕のゲイン設定の具体的なやり方:出発前にその場で何度かブリッピングして、レコーダーのレベルメーター(meter)でピークがどこまで振れるかを見る。ピークが頭を打たず、だいたい6dB以上の余裕を残せる位置に合わせてから走り出します。この1分のキャリブレーションが、しょっちゅう一走り分の録り直しを救ってくれます。

4層を積み重ねた効果はこうです。デッドキャットがいちばん外側で気流をほぐし、風下への設置で風がマイクに触れにくくなり、狭角の収音で横から漏れてくる風を締め出し、低ゲインで残りがあっても増幅も歪みもしない。各層が一段ずつ防いで、最後に後処理へ回るのは、ほんのわずかで、しかもとても扱いやすい残りだけになります。

後処理でどこまで救えるか、そして何が戻せないか

前の4層をきっちりやっても、高速域ではどうしても低域の風音が少し残ります。ここでようやく後処理の出番——でもその役割は仕上げで、主役じゃない。僕がよく使い、リスクも低い手は2つだけ。1つめはローカット(ハイパスフィルター)をかけて、人の耳にはほとんど聞こえないのに、ほぼ風のエネルギーで占められたその低域を切ること。風切り音のエネルギーは大半が100Hz以下に溜まっているので、排気との折り合いとして、僕はだいたい80〜100Hzあたりから下を切り始めます。この帯域は排気の聴感への影響が小さいわりに、ゴーッという底ノイズをかなり取り除けます。2つめはごく軽くノイズリダクションをひと掛けする、それも控えめに。

キーワードは「抑制」。ノイズリダクションを一度強くかけると、排気の厚みと質感まで一緒に削れて、あのこもった、布団越しみたいな偽物の音になる——これは僕の欲しいものと正反対です。僕の核はリアルで、クリーンで、後処理の痕跡があまり感じられないサウンド。選べと言われたら、僕は少しの自然な風感を残す方を選びます。ノイズリダクションで平らにならされた死んだ音にはしたくない。

結論は一言で済みます。後処理で救えるのは、いつだってその場で録り損ねなかった部分だけ。歪んだピークは戻らないし、風に丸ごと埋もれた低域もきれいに抜き出すのは難しい。だから僕は録音のその場のこの4層に全力を注ぎ、後処理は軽く、クリーンに済ませます。これらのやり方が実際にどんな音に録れるのか聴いてみたければ、トップページの最新動画から聴き始めてみてください。

よくある質問

バイクで高速走行中に排気音を録ると、なぜ風切り音はこんなに抑えにくいの?

ふつうの環境音とは違って、風切り音は気流がマイクの振動板に直接ぶつかって起きる低域のオーバーロードだからです。エネルギーがほぼ低域に集中していて、100〜200Hz以下が分厚くフラットに溜まり、一瞬で信号を振り切らせてしまう。しかも僕が残したい排気の低域とちょうど重なる。教訓はこうです——風は録音ボタンを押すその瞬間に防ぐしかない。後処理はあくまで仕上げで、いったん歪んでしまった部分は元に戻せません。

デッドキャット(ウィンドジャマー)は本当に効くの?スポンジ風防と何が違う?

まったく別物です。スポンジ風防はせいぜい10〜15dBくらいしか風切り音を防げませんが、デッドキャットは長い毛で気流を細かい乱流にほぐすことで20〜30dB以上カットでき、振動板への衝撃がずっと小さくなります。これに替えた途端、高速域のあのゴーッという低域の塊がワンランク下がりました。いちばん安く済んで、いちばん効果を実感できる一手です。

レコーダーは風に負けないようにどう置けばいい?

僕のルールは、車体や自分の体の後ろにできる後流域(風下)に押し込むこと。マイクはテール側へ、気流と同じ向きに向けて、風に正対させません。さらに Zoom H2n を指向性の狭い収音モードに切り替えて、収音範囲を後方の排気まわりに絞る。これで正面からの衝撃も横からの風切り音も、どちらも一段減らせます。

マイクゲインはどこまで下げればいい?

僕はいちばん大きいブリッピングのピークが、だいたい-12〜-6dBくらいで頭を打たない位置に収まるようにしています。排気の音圧はもともと高いので、ゲインを上げる必要はありません。上げすぎると逆に風切り音まで増幅され、歪みやすくもなります。小さめに録って後処理で持ち上げるほうが、歪ませるよりずっとマシです。

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